サンドバッグ

 不定期更新と言った傍からではありますが、書きかけのを一編置いておきます。
 本当はプロレス技とか、リングロープに引っ掛けてドロップキックとか、色々やりたくて書き出したのに、いつの間にか相手がただのサンドバッグになっていたので、書き直そうかどうしようか迷っていたものです。
 この後見たい展開とかありましたら教えて頂けると嬉しいです。


 ズッパァン!!
 打撃音が響く。同時に何かがリングを舞い、リングロープに激突する。
 バシィッ、ミシッ、ミシッ・・・。
 リングロープがしなる。はち切れんばかりに伸びきっている。その膨張の中心部分に激突した物があった。それは女性であった。このリングにおけるコスチュームたる青いビキニを身に纏った女性。Gカップの爆乳と茶髪のボブカットを特徴とする、彼女の名は九夜怜子(くや・れいこ)と言う。
「お・・・ぼぉ・・・・・・・・。」
 彼女は呻き声を上げた。内臓が悲鳴を上げ、内容物が今すぐにでも口から吹き出そうになっていたからだ。それを堪え必死で押し留めながら、ロープを掴み息を整える。そして右腕で腹を摩る。触れただけで痛みが脳に伝達されるが、それでも何もしないよりはマシだった。摩った腹は六つに割れる程に鍛え上げられていた。しかしその一つにくっきりと人の拳の跡が残っていた。
「今・・・のは・・・?」
「ワタシの拳・・・です。見えません・・・でしたか・・・?」
 別の女性が、嘲るでもなく、淡々と答え、尋ねる。その女性はリングの真ん中で両腕を下ろして立っていた。怜子と同じ形の白いビキニに身を包んだ女性。名を瀬戸命(せと・めい)と言う。怜子同様の爆乳と黒髪ロングヘアの女性。片目を髪で隠したその姿はどこか謎めいて見える。髪型や髪色は兎も角、二人とも抜群のプロポーションを持っていた二人だったが、違いが一つある。怜子の腹には拳の跡があり、命のそれには無いという点である。

 数分前。命と怜子が学園地下に用意された私闘用リングの上で対峙していた。観戦者は誰も居ない。二人だけの空間。今から二人はルール無用の殴り合いをしようとしていた。

 二人の通う女学園では、力が全てを決定していた。生徒会長は最も強い者がなる。弱い者は強い者の命を聞く。それはその学園においては当然のことであった。学生にはそれぞれ順位が決められていた。強さを示す順位。その数字を上げる方法は一つ。高い数字を持つ学生に私闘を挑み勝つ事であった。
 その私闘のルールは二つ。相手が倒れるまで殴り合う、武器は禁止で素手のみ。当然怪我人も多数出るが、この学園ではそれが黙認されていた。

 怜子は命に挑まれた側であった。怜子の順位は上の下といったところで、十三戦十二勝という、学園でも好成績を納めていた。他方、命は最下位。戦った記録すら無い。殆どの人間には無謀にしか見えない程の差があった。それを怜子が指摘すると、命は答えた。 「今回は・・・胸をお借りする・・・ということで・・・非公式で・・・お願いします・・・。」  怜子は一笑した後、その勝負を受けた。断る理由が無かった。この学園で順位の差は絶対だった。最低順位の人間が勝てるのは、それより少し上の順位の人間のみ。それが覆る事など有り得ないと彼女は考えていた。まして非公式ならば、万が一負けたとしても記録には残らない。怜子にデメリットは無い、ように思えた。

 そうしてリングで対峙した時、怜子は息を飲んだ。眼前の相手ーーー命の体が、とても最下位の人間のそれとは思えない程に鍛えられている事が一目でわかったからだ。制服に隠れて見えなかった腕と脚の筋肉は、美しさと逞しさを兼ね備えていた。腹筋も鍛え上げられ、鋼鉄のような硬さを備えているであろう事が見ただけで理解出来た。とても最下位の人間の肉体とは思えない。一度だけ見た事があった学園一位の女性、彼女のそれすら凌駕する程のものに見えた。
「貴方・・・は、その、一体・・・?」
 一体その体は何なのだ、どう鍛えたのだ、何故それで最下位なのだ、そんな疑問を込めた言葉が思わず口から溢れた。だが命は淡々と言った。
「ワタシ・・・?ただの・・・最下位の人間です・・・。それより、さあ・・・試合・・・始めましょう・・・?」
 命はボソボソとか細い声で答えると、拳を持ち上げ殴り合いの構えを取った。怜子は逡巡した。試合を受けた以上、逃げ出せば卒業まで指を指して笑われる。まして相手は最下位である。確かに素晴らしい肉体に見えるが、それでも所詮は最下位なのだ。怜子は今まで最下位に近い相手とも戦った事がある。何も瞬殺だった。それ以下の相手に何を恐れる必要があるのか。彼女は怯える自分にそう言い聞かせながら、眼前の相手と同様に構えを取った。

 私闘においてゴングは無い。レフェリーも居ない。二人の準備が出来たら後は二人の自由である。不意打ちの如く攻め立てようが、じっと睨み合いながら間を保とうが、好きに戦って良いことになっている。

 命と怜子の間に起きたのは前者であった。
 怜子が構えを取った瞬間、命が駆け出した。怜子はそれに気づけない。気づけるような速さでは無かった。稲妻の如き速さでリングを蹴った命は、一瞬で距離を詰めると、腕を上げただけで無防備な怜子の腹にストレートを放った。


 ーーーそして冒頭の打撃音へと戻る。


「はぁっ、はぁっ。」
 息が荒い。汗がだらだらと垂れてくる。怜子はたった一発の拳を受けただけで疲労困憊していた。
「一発だけで・・・ちょっとオーバーすぎませんか・・・?まだまだ一割も・・・出してませんよ・・・?」
 怜子にはそれは余りにも絶望的な宣言に聞こえた。
「い、いちっ・・・?」
「もう少し・・・行きますよ。」
 怜子の言葉を遮り、命が言う。そして、

 ズボォッ!!

 今度は何かが埋まるような鈍い音が響いた。
 それは先刻のそれよりも更に威力が増した命の拳が、怜子の腹肉を押し込む音であった。怜子が背にしたリングロープは更に軋み、怜子は内臓が潰れるような錯覚を覚えた。潰れた胃から液体が食堂を逆流する。
「おぶぇっ!!げぇっ!!ぼ、ぼぇぇっ!!」
 思わず嘔吐する怜子。耐えられなかった。堪える暇も無かった。先程のストレートは弾くような一撃だったが、今度のそれはハンマーの如く怜子の腹を潰しに掛かる一撃だった。怜子の腹は拳の形に凹み、その凹みの中央には真っ直ぐ命の腕が突き刺さっていた。嘔吐している今もその腕は少しずつ怜子の腹を侵食していく。怜子は呼吸すら苦しく感じてきた。
「汚い・・・ですね。それでも・・・上位闘士・・・なんですか?」
 リングに流れ落ちる怜子の吐瀉物を見ながら、命が淡々と問う。その声色に嘲りは無い。ただの純粋な疑問。それが怜子には堪らない。屈辱以外の何者でも無かった。
「ふ、ふざっ、ふざげっ、」
 命は、憤る怜子を無視して、彼女の腹に没入した腕を引き抜くと、再び同じ場所へと撃ち込んだ。押し込まれた肉が、一瞬解放され元の形に戻ろうとした瞬間、

 ドボォッッ!!

 そこから再び腕が肉にめり込む音が響いた。
「るぶぇぇぇぇっ!!」
 三発目。威力は増す一方だった。二発目よりも更に押し込まれた怜子の肉が、内臓を更に圧迫する。
「お、おぼ、おげぇ・・・。」
 ストレートのはずの命の一撃。だがその余りの威力に耐えられない怜子は前屈みになり、まるでボディアッパーを食らったかのように、命の体に寄りかかってしまう。命の言葉に偽りは無かった。彼女の今までの攻撃は、彼女の実力の1%にも満たないものだった。ただそれだけの力で、怜子の腹筋を破壊するには十分事足りてしまっていた。
「おっと・・・。」
 命は怜子の吐瀉物が掛からないように気をつけながら、寄りかかる彼女を抱き抱える。
「これでお終いですか・・・?つまらない・・・ですね。」
 そう言うと命は拳を抜き取り、怜子を突き放した。リングロープに再び凭れ掛かる怜子。彼女を背に命はリング中央に戻り、両腕をぶらりと下ろした。
「あぇ・・・?」
 意識が朦朧とし始めていた怜子が、何とか意識を保ちながら前を見ると、ただ突っ立っているだけの命の姿が目に留まった。
「仕方ないので・・・ハンデです・・・。今から・・・そうですね、三十秒・・・くらいですか。何もしませんので・・・好きにして下さい・・・。」
 明らかに馬鹿にした態度。発言。要するに「攻撃しないでやるから打ってこい」ということである。
「ふ、ふざ、」
 怜子は先程言いかけた言葉を改めて吐き出した。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そして駆け出すと、リング中央の命の腹目掛けて拳を打ち込んだ。
 パァン!!
 音がリングに響く。
 パァン!!スパァン!!パンパンパンパンパン!!
 怜子の全力を出し切った連続パンチが命の腹筋に直撃する。だが怜子の拳に手応えはない。まるで鉄で出来たドアを手で叩くようであった。鉄の塊に錯覚する程に硬い命の腹。それは打ち込んだ怜子の拳の方が痛む程の硬度を持っていた。
「ぐぅっ・・・。」
 怜子の顔がまた苦痛に歪む。指の節々が赤く腫れる。
「どう・・・しましたか・・・?ワタシ・・・立ってるだけですよ・・・?」
 命が顔を傾け疑問を呈する。
「アンタが・・・力込めてるからでしょ・・・!!」
「力?・・・込めてませんが・・・?え・・・まさか?」
 怜子は絶句した。そして命が言わんとした事が理解出来てしまった。

 ”こんな腹筋も打ち抜けないんですか?”

「う、が、うあああああああああっっっっっっっっ!!」
 怜子は一心不乱に両腕を振るい、左右交互に次々に拳を打ち込んだ。
 パンパンパンパンパンパンパン!!
 怜子のラッシュに微動だにしていない。小雨か何かを浴びているかのようである。実際には男性すら悶絶する程のラッシュなのだが、命の腹筋の前には無意味であった。
「えっと・・・その・・・あと・・・二秒・・・。」
 命は少し戸惑うように告げる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
 パンパンパンパンパンパンパン!!
 拳を打ち込みながら怜子は荒い息を立てる。拳には血が滲み始めていた。本当に鋼鉄でできているのではないかと錯覚すらする。だが相手は自分と同じビキニ。肉体である事は間違いないらしい。ならばいつかは打ち抜き、自分と同じ無様な姿を晒させてやる事が出来るはずだ。怜子はそう信じて拳を打ち続けていた。
「おおおおおおおっ!!」
 そして咆哮と共に最大の一撃を打ち込んだ。
 スパァン。
 乾いた一撃の音が響く。怜子の鉄壁を破るには至らなかった。一切の傷も凹みも無い腹筋を目の当たりにし、怜子は絶望した。命は目を瞑り溜息を吐くと、
「・・・時間です。」
 そう告げ、彼女はノーモーションで怜子の無防備な腹へ拳を打ち込んだ。

 ズッボォォォォォォッ!!

 先程の怜子の一撃とは比較にならない轟音がリング全体を振動させた。
「おっぶぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 怜子の背中が盛り上がった。先刻より更に高いその盛り上がりは、まるで彼女の爆乳の如く膨れ上がっている。その分彼女の腹は陥没し、命の拳が手首までめり込んでいる。
「げぶっ、げぇっ、ぶげぇぇぇっ!!」
 命の拳に体を預けるように前屈みになった怜子がえづく。目は虚ろでどこか遠くを見つめているようにも見える。苦痛で立っているのがやっとといった状況である。
 そんな怜子に対し、命は溜息を吐いた。
「大分・・・拍子抜けです・・・。罰として・・・もっと・・・汚くなってもらいます・・・。」
「ふ、ふぇ?」
 命はきょとんとする怜子を振り払うように拳を更に突き出し、リングロープへ追いやる。
「ぐっぶぅ・・・。」
 だが怜子にとってはそれは救いになった。たった数発で体力をごっそり削られた怜子は、ロープを両手で掴み、倒れないようにロープに体を預け、息を整えた。
「はぁっ、はぁっ、はぁぁぁっ・・・。」
 荒い息遣い。ほんのひと時、彼女に休息が与えられたかに見えた。  だが、シュッ、というリングを駆ける音で、彼女の休息は破られた。

 ズッボォォォォォォッ!!

 凄まじい音を立てて怜子の腹に命の右拳が激突した。それはそのまま彼女の腹を押し込んだ。今までの打撃を超える程の勢いで背中が膨らみ、腹の肉が押し込まれ、内臓が圧迫される。
「あぼっ、・・・ぼ、おぼっ・・・。」
 怜子の口に涎と血が溜まっていく。
「いきます・・・。」
 命はそう告げると、怜子の腹に埋もれていない左拳に力を込め始めた。
 怜子は何が起きようとしているのか、大凡理解出来た。
「や、や、やめ・・・。」

 ドッボォォォォォォッ!!

 怜子の懇願を無視して、命の右拳が引き抜かれ、それと同時に彼女の左拳が、数瞬前まで右拳があった場所に正確に撃ち込まれた。

「グベェェェェェッ!!」
 怜子は悲鳴を上げ、同時に涎と血と吐瀉物を吹き出した。同時に彼女はボキボキボキという骨が折れる音を聞いた。肋骨か何かが折れる音だろうか。だがそれを考える余裕は無かった。豪腕が襲った腹筋と内臓と背骨が、同時に悲鳴を上げていた。もうこれ以上は耐えられない、と。怜子の脳は痛みでショートしかけていた。彼女の目からは自然と涙が出ていた。痛みと、「この女には勝てない」という絶望感、そして「このままでは死ぬ」という確信から来る恐怖であった。
 命はそんな怜子を一瞥したが、その様子を意に介する事も無く、冷淡に告げた。
「ここから・・・本気で・・・いきます。安心して下さい・・・。死なないような手加減は・・・しますから・・・。」
 怜子にはそれが死刑宣告に聞こえた。今のこの状況で本気で無かったとしたら、本気を出されたら自分はどうなってしまうのか。手加減すると言っても、この女の手加減は、自分にとっての致死量に違いないと思えた。
「や、やめて・・・お願い・・・。私の・・・負けで・・・いいからぁ・・・。」
 怜子は懇願した。目の前が涙でボヤけて見える。最下位のはずの女に停戦を懇願するというのは彼女のプライドに傷つく行為ではあった。だがそれよりも彼女は命の方が大切だった。死にたくない、その一心で彼女は涙を流しながら頼んだ。
「イヤです。」
 命のその声は、今までの小声とは異なり、はっきりとしたものだった。

 ズッッッッッッッッッッドォォォォォォォォォォォォォオン!!

 命の豪腕が、怜子の腹に、”挿入”された。腹筋を掻き分け内臓を押し込み、命の腕が怜子の腹にめり込んだ。すっぽりと。本来あり得ないような光景、だがそれは実際に発生していた。
「ゔぼげぶぇっっっばぁぁぁぁっ!!」
 怜子が叫ぶ。

 ズドッ!!ズドドドドッ!!ドッドドドドドドッッッッッッ!!

 命は腕を振るう。何度も何度も、抜いては挿し、抜いては挿しを繰り返す。
「ゔげっ!!えぶっ!!ごぶぅぅぅぅっ!!やべ!!や、やべ!!やべぶぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 怜子は号泣しながら絶叫した。だが命は意に介さない。
「うふ・・・漸く・・・楽しくなってきたんですよ・・・?止めるわけ・・・ないじゃないですかぁ・・・。」
 興奮した様子で命が答える。その声は上ずって、どこか艶かしくもあった。

 ズドッ!!ズドドドドッ!!ドッドドドドドドッッッッッッ!!

 命の連打は続く。
「フフフ・・・アナタは・・・サンドバッグ・・・ワタシが満足するまで・・・殴り倒されるんです・・・よぉっ。」

 ズドドドドッッッッ!!ズドッッッッッッッ!!ドゴォッ!!ドブォォォォォォォォォォォォォオン!!

「ムグォァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッ!!」
 怜子が悶え苦しむ。それでも命は拳を止めない。

(続く?)

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